フレイルとは? 人生100年時代の健康づくり

 人生100年時代、誰もが最後まで自分らしく、いきいきと暮らしたいと願っています。しかし、「最近、疲れやすくなった」「外出するのが少しおっくうになった」と感じていませんか?

 実はそれ、加齢とともに心身の活力が低下する「フレイル」のサインかもしれません。フレイルは、健康な状態と要介護状態の中間にあたる、いわば“健康の黄信号”です。

 多くの人が「年のせい」と見過ごしがちですが、フレイルは早く気づき、適切な対策をとることで、進行を防ぎ、健康な状態に戻ることが可能です。この記事では、すこやかな未来の鍵となる「フレイル」の正体と、今日から始められる健康づくりのヒントを分かりやすく解説します。


第1章:フレイルとは? ― 健康と要介護の分かれ道

フレイルに負けない元気な高齢者

 「人生100年時代」と言われる今、私たちはこれまで以上に長いシニアライフを迎えることになります。しかし、ただ長生きするだけでなく、「健康で自分らしく生きる」ためには、避けては通れないキーワードがあります。それが**「フレイル」**です。

「フレイルは「健康」と「要介護」の中間地点」

 フレイル(Frailty)とは、日本語で「虚弱」を意味する言葉です。単に身体が弱ることだけを指すのではありません。加齢に伴って、筋力や心身の活力が低下し、ささいなきっかけで要介護状態に陥りやすい、健康と要介護の中間に位置する状態を指します。

 坂道をボールが転がり落ちる様子を想像してみてください。健康な状態が坂の上だとすれば、要介護状態は坂の下です。フレイルは、坂の途中のゆるやかな踊り場のようなもの。まだ踏ん張れば坂を上って健康な状態に戻ることもできますが、何もしなければあっという間に坂の下まで転がり落ちてしまう、非常に重要な時期なのです。

このフレイルには、互いに影響しあう3つの側面があります。

  1. 身体的フレイル: 筋力低下、疲れやすさ、活動量の低下、体重減少など。

  2. 精神・心理的フレイル: 気分の落ち込み、うつ、認知機能の低下など。

  3. 社会的フレイル: 社会とのつながりの希薄化、孤立、閉じこもりなど。

 例えば、「足腰が弱り(身体的)」、外出が面倒になり(精神・心理的)、友人との交流が減ってしまう(社会的)…というように、これらは悪循環を生みやすい特徴があります。

「データで見るフレイルの“いま”」

 では、実際にどれくらいの方がフレイルの状態にあるのでしょうか。データを見てみましょう。

2025年には、日本の人口の約5人に1人が75歳以上の後期高齢者になると言われています。ある日本の大規模な調査では、この後期高齢者のうち、実に20~30%がフレイルに、40~50%がその手前の「プレフレイル(予備群)」に該当すると報告されています。つまり、75歳以上の2人に1人以上が、すでにフレイルまたはその一歩手前の状態にあるのです。これは決して他人事ではありません。

 さらに、フレイルを放置することのリスクもデータで明らかになっています。フレイルと判定された方は、健康な方と比べて、数年後に要介護状態になるリスクや死亡率が2倍以上になるという研究結果が複数報告されています。

「希望のデータ:フレイルは改善できる!」

 しかし、暗いデータばかりではありません。最も重要なことは、「フレイルは可逆的である」、つまり、適切な対策によって健康な状態に戻ることができるという点です。

 実際に、プレフレイルやフレイルと診断された高齢者が、栄養指導や運動プログラム社会参加活動などの支援を受けた結果、1年後には約20~40%の方が健常な状態にまで改善したという希望のデータも報告されています。

「もう年だから」と諦める必要はありません。フレイルという“健康の黄信号”に早く気づき、正しい行動を起こすことが、人生100年時代の健康づくりには不可欠なのです。


第2章:フレイルの原因 ― なぜ心身の活力は低下するのか?

フレイルとは?膝が痛くて歩きづらい高齢者

 第1章では、フレイルが「健康と要介護の中間地点」であり、早く気づけば引き返せる重要な時期だとお伝えしました。では、そもそもなぜフレイルは起こってしまうのでしょうか。

 最大の要因は「加齢」ですが、「年のせい」と片付けてしまうのは早計です。フレイルは、生活習慣の中に潜む様々な原因が、まるでドミノ倒しのように連鎖して起こるのです。

フレイルの始まりは「筋肉の減少(サルコペニア)」

 フレイルを引き起こす最も中心的で、エンジン役となるのが**「サルコペニア」**です。サルコペニアとは、加齢や活動量の低下に伴い、筋肉の量が減り、筋力が低下した状態を指します。

 私たちの筋肉量は、40歳頃から年に約0.5〜1%のペースで自然に減少し始め、特に75歳を過ぎるとそのスピードは加速すると言われています。特に影響が大きいのが、歩く、立つ、座るといった日常動作を支える下半身の筋肉です。

筋肉が減ると、

  • 歩くのが遅くなる、すぐに疲れる

  • 信号を渡りきれない、階段で息が切れる

  • ふらついて転倒しやすくなる

といった問題が起こり、これが活動量の低下、つまり**「身体的フレイル」**の直接的な原因となります。

 

負の連鎖を生む「3つの原因」

サルコペニアを中核としながら、フレイルは以下の3つの原因が複雑に絡み合い、悪循環することで進行していきます。

 

1. 身体的な原因:栄養不足と口の衰え

 筋肉の材料となるのは、食事から摂る栄養、特にタンパク質です。しかし、高齢になると「あっさりしたものが好きになった」「一人暮らしで食事の準備が面倒」といった理由から、食事量が減り、栄養が偏りがちになります。

 また、見落とされがちなのが**「オーラルフレイル(口の虚弱)」**です。硬いものが食べにくくなる、むせやすくなる、口が渇くといった口周りのささいな衰えが、食べる楽しみを奪い、栄養状態をさらに悪化させてしまうのです。十分な栄養がなければ、いくら運動をしても筋肉は作られず、サルコペニアはどんどん進んでしまいます。

 

2. 社会的な原因:人や社会とのつながりの喪失

 定年退職、子どもの独立、親しい友人や配偶者との死別など、年齢を重ねると社会的な役割や人とのつながりが変化します。これがきっかけで外出の機会が減り、家に閉じこもりがちになると、一気にフレイルのリスクが高まります。

  • 外出しない → 活動量が減り、筋力が低下する(身体的フレイル)

  • 人と話さない → 脳への刺激が減り、認知機能や意欲が低下する(精神・心理的フレイル)

社会的な孤立は、心身の活力を奪う静かな引き金となるのです。

 

3. 精神・心理的な原因:認知機能の低下と気力の衰え

「新しいことを覚えるのが億劫になった」「何をするにもやる気が出ない」といった気分の落ち込みや認知機能の低下も、フレイルの大きな原因です。

 計画を立てて外出したり、バランスの良い食事を考えたり、友人と約束したりといった行動には、精神的なエネルギーが必要です。この意欲が低下すると、すべての活動が面倒になり、社会的な孤立や身体的な活動量の低下を招き、負の連鎖をさらに加速させてしまいます。

 

フレイル・ドミノを食い止める

 

 これらの原因は、まさにドミノ倒しのようです。

**「社会とのつながりの喪失」という小さなドミノが倒れると、「低栄養」や「サルコペニア」という大きなドミノが倒れ、やがては「要介護」**という最後のドミノにまで至ってしまいます。

 しかし、希望もあります。このドミノは、まだ途中で食い止めることができるのです。倒れかかっているドミノを一つでも支え、立て直すことができれば、全体の流れを変えることが可能です。

 

次の章では、この負の連鎖を断ち切り、元気な自分を取り戻すための具体的な対策について詳しく解説していきます。


【セルフチェック編】あなたのフレイル度は? まずは現状を知ることから

フレイル対策の第一歩は、**「自分の心と体の状態を客観的に知る」**ことです。ここでは、ご自宅で、特別な道具も使わずにできる代表的なセルフチェックを2つご紹介します。ゲーム感覚で試してみてください。

 

チェック1:指輪っかテスト 〜あなたの筋肉、足りていますか?〜

 

フレイルの中核となるサルコペニア(筋肉の減少)のリスクを、驚くほど簡単にチェックできる方法です。

【やり方】

  1. 椅子に座り、両足の裏をしっかりと床につけます。

  2. 利き足ではない方の、ふくらはぎの一番太い部分を探します。

  3. 両手の親指と人差し指で輪っか(“指輪っか”)を作り、そのふくらはぎを軽く囲んでみてください。

【判定】

  • 指が届かず囲めない 筋肉量は十分に足りている可能性が高いです。今の状態を維持していきましょう。

  • ちょうどぴったり囲める 筋肉量が減り始めているサインかもしれません。要注意です。

  • 指とふくらはぎの間に隙間ができる 筋肉量がかなり低下している可能性があります。サルコペニアのリスクが高まっている状態ですので、早めの対策が推奨されます。

 

チェック2:イレブンチェック 〜心と体の総合力を評価〜

 

 次に、身体的な側面だけでなく、栄養状態や社会とのつながりなどを含めた、総合的なフレイルのリスクをチェックしてみましょう。以下の11項目の質問に、「はい」か「いいえ」で答えてください。

【質問】 (※4, 5, 7, 10, 11の質問は「いいえ」がリスクになります)

  1. この半年間で、体重が2〜3kg減りましたか?

  2. 口の中が乾いて、食べ物が飲み込みにくいことがありますか?

  3. 5年前に比べて、歩くのが遅くなったと感じますか?

  4. ウォーキングなどの運動を、週に1回以上していますか? (→いいえ)

  5. 友人の家を訪ねたり、友人が訪ねてきたりしますか? (→いいえ)

  6. 「あれ」「それ」が多くなり、物忘れが気になりますか?

  7. 自分で電話番号を調べて、電話をかけることができますか? (→いいえ)

  8. ここ2週間、気分が落ち込むことがよくありますか?

  9. 今日が何月何日かわからない時がありますか?

  10. 階段を上がるのに、手すりや壁が必要ですか? (→いいえ)

  11. 牛乳やヨーグルトなどの乳製品を、ほぼ毎日とっていますか? (→いいえ)

【判定】 「はい」と答えた項目の数と、「いいえ」がリスクとなる質問(4, 5, 7, 10, 11)で「いいえ」と答えた数を合計してください。

  • 合計 0〜2個: フレイルの心配は少ないでしょう。今の健康的な生活を続けましょう。

  • 合計 3〜4個: フレイルの**一歩手前(プレフレイル)**の可能性があります。生活習慣を見直す良い機会です。

  • 合計 5個以上: フレイルの可能性が考えられます。早めに具体的な対策を始めましょう。

 

チェックを終えて

 

 いかがでしたか? もし、いずれかのチェックで気になる結果が出たとしても、決して落ち込む必要はありません。これは、あなたの体が「そろそろメンテナンスが必要だよ」と送ってくれている、未来の健康を守るための大切なサインです。

 


第3章:フレイルの対策 ― 今日から始める「負の連鎖」を断ち切る3つの柱

フレイル対策の食事と栄養「合言葉は「さあ、にぎやかに食卓を」

 第2章では、フレイルが「サルコペニア」「栄養不足」「社会的孤立」などの原因が絡み合い、ドミノ倒しのように進行することをお伝えしました。しかし、裏を返せば、倒れかかったドミノを一つでも立て直せば、負の連鎖は断ち切れるということです。

 そのための鍵となるのが**「栄養」「運動」「社会参加」**の3つの柱です。これらはどれか一つだけ頑張るのではなく、三輪車の車輪のように、バランスよく回していくことが大切です。

 

対策の柱①:栄養 ― 食べる力で、からだの土台をつくる

 

 活動的な毎日を送るためのエネルギー源であり、筋肉の材料となるのが「栄養」です。特にフレイル予防では、タンパク質を意識して摂ることが何よりも重要です。

 

【今日からできるアクション】

 

  • 合言葉は「さあ、にぎやかに食卓を」 これは、多様な食品をバランス良く食べるための覚えやすい合言葉です。かな、ぶら(油脂)、く、ゅうにゅう、さい、いそう、も、まご、いず製品、だもの。完璧でなくても、「食卓の色どりを豊かにする」と意識するだけで、栄養バランスは大きく改善します。

  • いつもの食事に「+1品(プラスワン)」 難しく考えず、まずはいつもの食事に一品、タンパク質を加えてみましょう。

    • 朝食のパンに、チーズやヨーグルトをプラス

    • お味噌汁に、豆腐や卵をプラス

    • サラダに、ツナやちりめんじゃこをプラス

  • お口の健康も忘れずに(オーラルフレイル対策) 食事をおいしく、しっかり食べるためには、お口の健康が不可欠です。よく噛んで食べることを意識したり、食後に「パ・タ・カ・ラ」と発声するお口の体操を取り入れたりするのも効果的です。

 

対策の柱②:運動 ― 動けるからだで、世界を広げる

 

 筋肉は使わなければ衰えますが、何歳からでもトレーニングによって維持・向上させることができます。特別な運動でなくても、日常生活の中で体を動かす意識が大切です。

 

【今日からできるアクション】

 

  • まずは「今より10分多く」体を動かす いきなりジョギングを始める必要はありません。散歩、ラジオ体操、庭いじりなど、無理なく続けられることから始めましょう。エレベーターを階段にする、少し遠くのスーパーまで歩くなど、日常の活動量を少し増やすだけで立派な運動です。

  • おすすめは「ながら運動」

    • テレビを見ながら、ゆっくり立ち座りを繰り返す(スクワット)

    • 歯磨きをしながら、かかとを上げ下げする

    • 料理をしながら、テーブルに手をついて腕立て伏せ これなら忙しい方でも続けやすく、特に下半身や体幹の筋肉を鍛えるのに効果的です。

 

対策の柱③:社会参加 ― つながる力で、こころの活力を保つ

 

 人や社会とのつながりは、生活にハリと潤いを与え、脳を活性化させ、心身の健康を保つために欠かせません。閉じこもりを防ぎ、意識的に外出の機会をつくりましょう。

 

【今日からできるアクション】

 

  • 「週に1度は、誰かと話す」と決めてみる 家族や友人との会話はもちろん、お店の店員さんとの一言二言のやり取りも立派な社会との接点です。

  • 地域の集まりに顔を出してみる 趣味のサークル、ボランティア活動、自治体が主催する「通いの場」など、興味のある場所に足を運んでみましょう。同じ関心を持つ仲間との出会いは、新しい生きがいにつながります。

  • 役割を持つ 町内会の役員、マンションの理事、孫の世話、ペットの散歩など、どんなことでも構いません。「誰かの役に立っている」という感覚は、自己肯定感を高め、日々の活力になります。


まとめ

 これら3つの柱は、互いに深く関わり合っています。 栄養が満たされれば、運動する意欲が湧きます。運動して筋力がつけば、外出が楽になり、社会参加の機会も増えます。そして、人と交流して笑い合えば、食欲も増進します。

 

 この**「健康の好循環」**を回し始めることが、フレイルを予防し、自分らしい人生100年時代を歩むための確かな一歩となるのです。

「自分一人では何から始めればいいか分からない」「今の自分の状態に合った、より効果的な方法が知りたい」。もしそう感じたら、ぜひ私たち専門家にご相談ください。あなたの健康づくりを、全力でサポートします。


執筆、監修者

ウェルネスドア合同会社 代表:狩野 学

 

出典・引用・参考

主な出典・参照元は以下の通りです。

 

  1. 国立長寿医療研究センター (NCGG)

    • 日本の高齢者医療および研究の中核機関です。日本人高齢者を対象とした大規模な追跡調査(NILS-LSA:老化に関する長期縦断疫学研究)から得られるフレイルの有病率やリスクに関するデータ、フレイル予防のための介入研究(栄養・運動プログラムの効果検証など)の結果などを参照しています。

    • 参照した主な情報: フレイルの有病率、改善率、サルコペニアに関するデータなど。

  2. 東京大学 高齢社会総合研究機構 (IOG)

    • 千葉県柏市で実施されている大規模コホート研究「柏スタディ」は、日本のフレイル研究において非常に重要な知見を提供しています。フレイルが将来の要介護や死亡リスクをどの程度高めるか、といったデータはこの研究から多く報告されています。

    • 参照した主な情報: フレイルの有病率、要介護・死亡リスクの倍率、そして本稿で紹介した**「指輪っかテスト」「イレブンチェック」**の開発元でもあります。

  3. 日本老年医学会

    • 高齢者医療の専門家が集う学術団体です。医師向けに発行している**「フレイル診療ガイドライン」**には、フレイルの定義、診断基準、各種データ、推奨される対策などが科学的根拠に基づいてまとめられており、本稿の全体的な構成や内容の正確性を担保するために参照しています。

  4. 厚生労働省

    • 日本の保健医療行政を司る機関として、介護予防に関する様々な情報を公開しています。介護予防・日常生活支援総合事業で用いられる**「基本チェックリスト」**は、フレイルのリスクを評価するツールとして広く活用されており、その考え方を参考にしています。また、健康日本21などで示される健康寿命に関するデータや、食生活指針なども参照元となります。

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