フレイルとは? 人生100年時代の健康づくり

この記事のポイント

  • 健康と要介護の中間地点である「フレイル」の正体と、適切な対策で健康な状態に戻れる可能性がわかる
  • フレイルが「筋肉の減少」を中核に、栄養・社会とのつながり・心の活力が連鎖して起こる仕組みが学べる
  • 負の連鎖を断ち切るための「栄養」「運動」「社会参加」という3つの具体的な対策が手に入る
  • ご自身のフレイルリスクを、「指輪っかテスト」や「イレブンチェック」で簡単にセルフチェックできる

人生100年時代、健康に生きるために

人生100年時代。誰もが、最後まで自分らしく、いきいきと暮らしたいと願っています。 けれど最近、「疲れやすくなった」「外出が少しおっくうになった」と感じることはありませんか?

実はそれ、加齢に伴い心身の活力が低下する「フレイル」の兆候かもしれません。 フレイルとは、健康な状態と要介護状態の中間にあたる、いわば“健康の黄信号”です。

多くの人が「年のせい」と見過ごしがちですが、フレイルは早期に気づき、適切な対策をとることで進行を防ぎ、 健康な状態に戻ることも可能です。

この記事では、すこやかな未来の鍵となる「フレイル」の正体と、 今日から始められる健康づくりのヒントを、わかりやすくご紹介します。


第1章:フレイルとは?

― 健康と要介護の分かれ道 ―

「人生100年時代」と言われる今、私たちはこれまで以上に長いシニアライフを迎えます。
しかし、ただ長生きするだけでなく、「健康で自分らしく生きる」ためには、
避けては通れないキーワードがあります。それが「フレイル」です。

フレイルは「健康」と「要介護」の中間地点

フレイル(Frailty)とは日本語で「虚弱」を意味し、加齢に伴って心身の活力が低下し、
ささいなきっかけで要介護状態に陥りやすい状態を指します。

坂道をボールが転がる様子を想像してみてください。フレイルは坂の途中の踊り場のようなもの。
まだ踏ん張れば健康な状態に戻ることもできますが、何もしなければ坂の下まで転がり落ちてしまう、
非常に重要な時期なのです。

このフレイルには、互いに影響しあう3つの側面があります。

身体的フレイル

筋力低下、疲れやすさ、
活動量の低下など。

精神・心理的フレイル

気分の落ち込み、うつ、
認知機能の低下など。

社会的フレイル

孤立、閉じこもり、
社会とのつながりの希薄化など。

例えば、「足腰が弱り(身体的)」、外出が面倒になり(精神・心理的)、
友人との交流が減ってしまう(社会的)…というように、これらは悪循環を生みやすい特徴があります。

データで見るフレイルの“いま”

2025年には日本の人口の約5人に1人が75歳以上の後期高齢者になると言われています。
大規模調査では、この後期高齢者のうち実に20~30%がフレイルに、
40~50%が「プレフレイル(予備群)」に該当すると報告されています。

つまり、75歳以上の2人に1人以上が、
すでにフレイルまたはその一歩手前の状態にあるのです。

さらに、フレイルを放置すると、健康な方と比べて
数年後の要介護リスクや死亡率が2倍以上になるという報告もあります。

希望のデータ:フレイルは改善できる!

しかし、暗いデータばかりではありません。最も重要なことは、
「フレイルは可逆的である」、つまり適切な対策によって健康な状態に戻ることができるという点です。

実際に、栄養指導や運動プログラム等の支援を受けた結果、
1年後にはプレフレイルやフレイルと診断された方の約20~40%が健常な状態にまで改善したという希望のデータも報告されています。

「もう年だから」と諦める必要はありません。
フレイルという“健康の黄信号”に早く気づき、正しい行動を起こしましょう。

第2章:フレイルの原因

― なぜ心身の活力は低下するのか? ―

第1章では、フレイルが「健康と要介護の中間地点」であり、
早く気づけば引き返せる重要な時期だとお伝えしました。では、なぜフレイルは起こるのでしょうか。

最大の要因は「加齢」ですが、「年のせい」と片付けるのは早計です。
フレイルは、生活習慣の中に潜む様々な原因が、まるでドミノ倒しのように連鎖して起こるのです。

フレイルの始まりは「筋肉の減少(サルコペニア)」

フレイルを引き起こすエンジン役となるのが「サルコペニア」です。
これは加齢や活動量の低下で筋肉の量が減り、筋力が低下した状態を指します。
特に、歩く・立つ・座るといった日常動作を支える下半身の筋肉への影響が深刻です。

筋肉が減ると…

  • 歩くのが遅くなる、すぐに疲れる
  • 信号を渡りきれない、階段で息が切れる
  • ふらついて転倒しやすくなる

負の連鎖を生む「3つの原因」

サルコペニアを中核としながら、以下の3つの原因が複雑に絡み合い、悪循環することで進行します。

1. 身体的な原因:
栄養不足と口の衰え

食事量が減り、筋肉の材料となるタンパク質が不足しがちです。また、硬いものが食べにくい「オーラルフレイル(口の虚弱)」が低栄養をさらに悪化させ、サルコペニアを進行させます。

2. 社会的な原因:
人や社会とのつながりの喪失

定年退職や死別などを機に外出が減り、家に閉じこもりがちになると、フレイルのリスクが高まります。社会的な孤立は、心身の活力を奪う静かな引き金となるのです。

3. 精神・心理的な原因:
認知機能の低下と気力の衰え

「やる気が出ない」といった気分の落ち込みや認知機能の低下も大きな原因です。意欲の低下は全ての活動を面倒に感じさせ、負の連鎖をさらに加速させます。

フレイル・ドミノを食い止める

これらの原因はまさにドミノ倒しです。
「社会とのつながりの喪失」→「低栄養」→「サルコペニア」→「要介護」
という連鎖を、途中で食い止めることが可能です。

次の章では、この負の連鎖を断ち切るための具体的な対策を解説します。

【セルフチェック編】あなたのフレイル度は?

対策の第一歩は「自分の状態を知る」こと。ゲーム感覚で試してみてください。

チェック1:指輪っかテスト 〜あなたの筋肉、足りていますか?〜

フレイルの中核、サルコペニアのリスクを簡単にチェックできます。利き足ではない方のふくらはぎの一番太い部分を、両手の指で作った輪っかで囲んでみてください。

チェック2:イレブンチェック 〜心と体の総合力〜

総合的なフレイルのリスクをチェックします。各質問に「はい」か「いいえ」で答えてください。

第3章:フレイルの対策
―「負の連鎖」を断ち切る3つの柱 ―

フレイルは、様々な原因が絡み合い、ドミノ倒しのように進行しますが、裏を返せば、倒れかかったドミノを一つでも立て直せば、負の連鎖は断ち切れます。

その鍵が、「栄養」「運動」「社会参加」の3つの柱です。

これらはどれか一つだけではなく、三輪車の車輪のように、バランスよく回していくことが大切です。

対策の柱①:栄養
― 食べる力で、からだの土台をつくる ―

活動的な毎日のエネルギー源であり、
筋肉の材料となるのが「栄養」です。
特にフレイル予防では、タンパク質を意識して摂ることが何よりも重要になります。

【今日からできるアクション】

合言葉は「さあ、にぎやかに食卓を」

これは、多様な食品(かな、ぶら、く、ゅうにゅう、さい、いそう、も、まご、いず製品、だもの)をバランス良く食べるための合言葉です。「食卓の色どりを豊かにする」と意識するだけで、栄養バランスは大きく改善します。

いつもの食事に「+1品(プラスワン)」

難しく考えず、いつもの食事にタンパク質を一品加えてみましょう。

  • 朝食のパンに、チーズやヨーグルトをプラス
  • お味噌汁に、豆腐や卵をプラス
  • サラダに、ツナやちりめんじゃこをプラス

お口の健康も忘れずに(オーラルフレイル対策)

しっかり噛んで食べる、食後に「パ・タ・カ・ラ」と発声するお口の体操を取り入れるなど、お口の健康を保つことも食事には不可欠です。

対策の柱②:運動
― 動けるからだで、世界を広げる ―

筋肉は何歳からでもトレーニングで維持・向上できます。
日常生活の中で体を動かす意識が大切です。

【今日からできるアクション】

まずは「今より10分多く」体を動かす

散歩やラジオ体操など、無理なく続けられることから始めましょう。少し遠くのスーパーまで歩くなど、日常の活動量を少し増やすだけで立派な運動です。

おすすめは「ながら運動」

忙しい方でも続けやすく、特に下半身や体幹の筋肉を鍛えるのに効果的です。

  • テレビを見ながら、ゆっくり立ち座り(スクワット)
  • 歯磨きをしながら、かかとの上げ下げ
  • 料理をしながら、テーブルで腕立て伏せ

対策の柱③:社会参加
― つながる力で、こころの活力を保つ ―

人や社会とのつながりは、生活にハリを与え、
心身の健康を保つために欠かせません。
意識的に外出の機会をつくり、閉じこもりを防ぎましょう。

【今日からできるアクション】

「週に1度は、誰かと話す」と決めてみる

家族や友人との会話はもちろん、お店の人との一言二言のやり取りも立派な社会との接点です。

地域の集まりに顔を出してみる

趣味のサークルやボランティアなど、興味のある場所に足を運んでみましょう。新しい生きがいにつながります。

役割を持つ

町内会の役員やペットの散歩など、どんなことでも構いません。「誰かの役に立っている」という感覚は、日々の活力になります。


まとめ

これら3つの柱は、互いに深く関わり合っています。
栄養が満たされれば、運動する意欲が湧きます。
運動して筋力がつけば、外出が楽になり、社会参加の機会も増えます。
そして、人と交流して笑い合えば、食欲も増進します。

「健康の好循環」を回し始めることが、フレイルを予防し、自分らしい人生100年時代を歩むための確かな一歩となるのです。

「自分一人では何から始めればいいか分からない」「今の自分の状態に合った、より効果的な方法が知りたい」。
もしそう感じたら、ぜひ私たち専門家にご相談ください。
あなたの健康づくりを、全力でサポートします。


執筆、監修者
ウェルネスドア合同会社 代表:狩野 学

フレイル予防 理解度クイズ

質問文がここに表示されます。


出典・引用・参考

主な出典・参照元は以下の通りです。

国立長寿医療研究センター (NCGG)

日本の高齢者医療および研究の中核機関です。
日本人高齢者を対象とした大規模な追跡調査(NILS-LSA:老化に関する長期縦断疫学研究)から得られるフレイルの有病率やリスクに関するデータ、
フレイル予防のための介入研究(栄養・運動プログラムの効果検証など)の結果などを参照しています。

参照した主な情報: フレイルの有病率、改善率、サルコペニアに関するデータなど。

東京大学 高齢社会総合研究機構 (IOG)

千葉県柏市で実施されている大規模コホート研究「柏スタディ」は、日本のフレイル研究において非常に重要な知見を提供しています。
フレイルが将来の要介護や死亡リスクをどの程度高めるか、といったデータはこの研究から多く報告されています。

参照した主な情報: フレイルの有病率、要介護・死亡リスクの倍率、そして本稿で紹介した「指輪っかテスト」や「イレブンチェック」の開発元でもあります。

日本老年医学会

高齢者医療の専門家が集う学術団体です。
医師向けに発行している「フレイル診療ガイドライン」には、フレイルの定義、診断基準、各種データ、推奨される対策などが科学的根拠に基づいてまとめられており、
本稿の全体的な構成や内容の正確性を担保するために参照しています。

厚生労働省

日本の保健医療行政を司る機関として、介護予防に関する様々な情報を公開しています。
介護予防・日常生活支援総合事業で用いられる「基本チェックリスト」は、フレイルのリスクを評価するツールとして広く活用されており、その考え方を参考にしています。
また、健康日本21などで示される健康寿命に関するデータや、食生活指針なども参照元となります。

当社サービスに関してのお問い合わせ

フレイル予防・対策セミナー-