「健康投資のROI」を算出する3ステップ|経営層を“数字”で説得する実践ガイド

多くの企業が健康経営の「重要性」は理解しています。しかし、いざ施策を提案すると、その**「投資対効果」**を具体的に示せず、計画が承認されないケースは後を絶ちません。

「従業員の健康」という見えない資産価値を、どうすれば経営層が納得する**「見える数字」**にできるのか?

この記事では、健康投資の効果を測定し、経営層を説得するための具体的なフレームワークを3つのステップで解説します。あなたの提案を「コスト」から「戦略的投資」へと昇華させるための、実践的なガイドです。

ステップ1:効果測定の「モノサシ」を持つ(ROIとVOI)

まず、健康投資の効果を測る2つの重要な指標を理解しましょう。

  • ROI (Return on Investment):投資利益率
    投じた費用に対して、どれだけ直接的な利益(医療費削減など)があったかを示す財務指標。経営層が最も気にする数字です。
  • VOI (Value of Investment):投資価値
    エンゲージメント向上による離職率低下や、企業イメージ向上による採用力強化など、数値化しにくい非財務的な価値を含んだ、より広範な指標です。

提案の際は「ROIで足元のコスト削減効果を示し、VOIで未来への戦略的価値を語る」という両輪のアプローチが、説得力を格段に高めます。

ステップ2:「何もしない場合のコスト」を算出する

健康施策の価値を示すには、まず「現状(何もしない場合)」にどれだけのコストが発生しているかを可視化する必要があります。

① 医療費コストの算出

健康保険組合のデータから「従業員一人当たりの年間医療費」を把握し、業界平均や過去の数値と比較します。

現状コスト = (自社の年間医療費 - 業界平均の年間医療費) × 従業員数

【計算サンプル:従業員100名の場合】

自社の一人当たり年間医療費が45万円、業界平均が40万円だった場合、
(45万円 - 40万円) × 100人 = 500万円
となり、業界平均より年間500万円多く医療費コストが発生していると推定できます。

② アブセンティーズム(病欠)コストの算出

従業員の病欠や休業による、直接的な人件費損失を計算します。

損失額 = 年間の総病欠日数 × (平均年収 ÷ 年間労働日数)

【計算サンプル:従業員100名、平均年収500万円、年間労働日数240日の場合】

まず、一人当たりの日給を算出します。
500万円 ÷ 240日 = 約20,800円
年間の総病欠日数が150日だった場合、
150日 × 20,800円 = 312万円
となり、病欠だけで年間約312万円の人件費損失が発生していると算出されます。

③ プレゼンティーズム(生産性低下)コストの算出

最も巨大な「見えないコスト」。出社はしているが、心身の不調でパフォーマンスが低下している状態です。アンケート等で概算値を算出します。

損失額 = 対象従業員の総人件費 × 労働生産性損失率(%)

※労働生産性損失率は、WHO-HPQなどの質問票や、「過去1ヶ月、不調で仕事のパフォーマンスが何%低下しましたか?」といった自己評価アンケートから推定します。

【計算サンプル:従業員100名、平均年収500万円の企業の場合】

まず、対象となる人件費総額を算出します。
500万円 × 100人 = 5億円
アンケートの結果、労働生産性損失率が平均10%だった場合、
5億円 × 10% = 5,000万円
となり、見えない生産性損失が年間5,000万円にのぼると推定できます。

ステップ3:データに基づいた「健康投資」企画書を作成する

算出したデータをもとに、説得力のある事業計画を組み立てます。

  1. 現状コストの明示:「現状を放置した場合、当社は医療費、病欠、生産性低下により、年間合計で最大〇〇円の損失を被り続ける可能性があります」と、具体的な数字で課題を提示します。
  2. 目標設定と効果試算:「今回の施策(投資額:〇〇円)により、プレゼンティーズム損失を2%改善し、年間1,000万円のコスト削減を目指します」と、具体的な目標とROIの試算を示します。
  3. VOIの提示:「さらに、従業員エンゲージメントの向上による離職率の低下(〇%改善目標)も見込まれます」と、VOIの視点から戦略的価値を補足します。

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【主な情報源】
・経済産業省「企業の『健康経営』ガイドブック」
・厚生労働省「データヘルス・ポータル」