「自分は平均と比べてどうなのだろう?」
健康診断の結果や日々の生活習慣について、ふとそう感じたことはありませんか。今回、厚生労働省が発表した最新の「令和5年 国民健康・栄養調査」の公式データをもとに、現代日本の「健康のリアル」を徹底的に解き明かしていきます。
これからご覧いただくのは、単なる統計データではありません。私たち一人ひとりの生活が映し出された鏡です。この鏡にご自身の姿を映し、生活習慣を客観的に振り返るための完全ガイドとしてご活用ください。
健康の土台となる体格(BMI)です。肥満だけでなく、若年女性の「やせ」や高齢者の「低栄養」も深刻な問題です。
肥満者(BMI≧25)の割合:
男性: 31.5%
女性: 21.1%
やせの者(BMI<18.5)の割合:
男性: 4.4%
女性: 12.0% (特に20-30代女性では20.2%)
年代 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
20-29歳 | 23.2% | 11.8% |
30-39歳 | 30.2% | 12.4% |
40-49歳 | 34.3% | 19.0% |
50-59歳 | 34.8% | 24.3% |
60-69歳 | 35.0% | 25.0% |
70歳以上 | 29.0% | 22.2% |
(出典: 令和5年 国民健康・栄養調査 P.34)
Q. 体格について、特に注意が必要な世代は?A. 肥満は男性40-60代、女性60代でピークを迎えます。一方で20-30代女性はやせすぎ、高齢者(特に女性)は低栄養傾向が顕著です。
男性は現役世代である40代から肥満が急増し、60代でピークを迎えます。加齢による基礎代謝の低下に加え、運動不足や食生活の乱れが重なることが原因と考えられます。
女性はライフステージごとに課題が異なります。20-30代の約2割が「やせ」に該当し、栄養不足による健康障害が懸念されます。65歳以上の高齢者、特に女性(22.4%)では、筋力や活力が低下する「フレイル」に繋がる「低栄養傾向(BMI≦20)」が大きな問題です。
次に、自覚症状が出にくいものの、放置すると深刻な病気に繋がる生活習慣病の3つの重要指標(血圧・血糖値・コレステロール)を見ていきましょう。
男性: 27.5%
女性: 22.5%
男女ともに約4人に1人が高血圧に該当します。特に女性は令和元年から比較して有意に減少しており、健康意識の高まりがうかがえます。高血圧は塩分の過剰摂取や肥満、運動不足が主な原因です。
(出典: 令和5年 国民健康・栄養調査 P.37)
男性: 16.8%
女性: 8.9%
ヘモグロビンA1cの値が6.5%以上、または治療中の者を対象としています。特に男性の割合が高く、年齢と共に上昇します。70歳以上の男性では26.2%に達し、4人に1人が該当する計算です。食生活の乱れや運動不足が血糖値の上昇に直結します。
(出典: 令和5年 国民健康・栄養調査 P.36)
男性: 10.1%
女性: 23.1%
コレステロール値は女性、特に閉経期以降に高くなる傾向が顕著です。女性ホルモンの減少が脂質代謝に影響を与えるためと考えられています。男性の約2倍以上の女性が基準値を超えており、注意が必要です。
(出典: 令和5年 国民健康・栄養調査 P.38)
体を作る基本である食事。現代日本人は「野菜不足」「塩分過多」そして「栄養バランスの乱れ」という3つの課題を抱えています。
男性: 262.2 g
女性: 250.6 g
国の目標値350gに対し、全世代で大幅に不足しています。特に20代は男女ともに最も摂取量が少なく(男性230.9g、女性211.8g)、深刻な野菜不足です。外食や単品食べの習慣が影響していると考えられます。
(出典: 令和5年 国民健康・栄養調査 P.40)
男性: 10.7 g
女性: 9.1 g
国の目標値7gを全世代で大幅に超過しています。特に60代男性(11.1g)で最も高くなります。和食に多い醤油や味噌、漬物や麺類の汁などが主な原因で、自覚のないまま過剰摂取しているケースが多く見られます。
(出典: 令和5年 国民健康・栄養調査 P.39)
1日2回以上、毎日食べている人の割合
男性: 45.7%
女性: 47.1%
栄養バランスの取れた食事を毎日実践できている人は、男女ともに半数以下に留まります。特に若い世代ほどその割合は低く、20代男性では27.8%まで落ち込みます。忙しさや面倒臭さが主な妨げとなっており、手軽な単品食べへの偏りが懸念されます。
(出典: 令和5年 国民健康・栄養調査 P.41)
健康維持に不可欠な運動。意識的に運動する習慣と、日常生活での歩数という2つの側面から見ていきます。
(1回30分以上の運動を週2回以上、1年以上継続している者)
男性: 36.2%
女性: 28.6%
年代 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
20代 | 26.5% | 14.5% |
30代 | 23.5% | 16.9% |
40代 | 30.1% | 17.9% |
50代 | 25.6% | 27.4% |
60代 | 35.7% | 30.0% |
70代以上 | 46.5% | 36.5% |
(出典: 令和5年 国民健康・栄養調査 P.46)
Q. 最も運動しておらず、かつ歩数も少ない世代は?A. 運動習慣は男性30代(23.5%)、女性20代(14.5%)で最低です。また、1日の平均歩数は高齢になると大きく減少し、特に70歳以上の女性は4,419歩に留まります。
運動習慣は、仕事や育児で多忙な20〜30代で著しく低下し、リタイア後の高齢層で回復するという「V字型」の傾向が顕著です。一方、1日の平均歩数(男性6,628歩、女性5,659歩)は、この10年間で男女ともに有意に減少しています。特に高齢者は歩数が大きく落ち込み、身体機能の低下が懸念されます。意識的な運動と日常生活での活動量の両方を確保することが重要です。
(出典: 令和5年 国民健康・栄養調査 P.47)
心身の回復に不可欠な睡眠ですが、多くの人が十分な時間を確保できていません。
男性: 38.5%
女性: 43.6%
年代 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
20代 | 39.2% | 40.8% |
30代 | 46.0% | 45.3% |
40代 | 51.9% | 51.6% |
50代 | 48.1% | 52.4% |
60代 | 39.9% | 45.9% |
70代以上 | 23.2% | 25.6% |
(出典: 令和5年 国民健康・栄養調査 P.48)
Q. 日本で最も睡眠時間が短いのはどの世代ですか?A. 男女とも40代・50代です。この世代の約半数が6時間未満の睡眠しか取れておらず、特に50代女性(52.4%)は半数以上が該当します。
40代・50代の「睡眠クライシス」は極めて深刻です。職場で重責を担い、家庭では子育てや親の介護に直面する「サンドイッチ世代」と重なり、睡眠時間が犠牲になっています。睡眠不足は単なる眠気だけでなく、集中力の低下、免疫力の低下、うつ病や生活習慣病のリスクを増大させます。この世代の睡眠確保は、個人の問題だけでなく、社会全体の生産性に関わる重要課題です。
喫煙・飲酒の状況です。喫煙率は全体的に減少傾向ですが、特定の世代では依然として高い水準です。飲酒については、女性のリスクが高まっています。
男性: 25.6%
女性: 6.9%
年代 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
20代 | 20.6% | 5.2% |
30代 | 29.9% | 8.7% |
40代 | 33.4% | 10.1% |
50代 | 31.5% | 11.7% |
60代 | 28.5% | 7.1% |
70代以上 | 16.2% | 2.3% |
(出典: 令和5年 国民健康・栄養調査 P.50)
Q. 喫煙・飲酒で特にリスクが高いのはどの層ですか?A. 喫煙は40代男性(33.4%)で最も高く、リスクの高い飲酒は男性が40代(23.6%)、女性が50代(14.6%)でピークを迎えます。
(1日あたり純アルコールで男性40g以上、女性20g以上の者)
男性: 14.1%
女性: 9.5%
喫煙率は全体として減少傾向にあるものの、30代から50代の男性では依然として約3人に1人が喫煙者という高い水準です。仕事上のストレスなどが背景にあると考えられます。
飲酒については、40代男性でリスクの高い飲酒が突出しています。一方でより注目すべきは女性の飲酒リスクの高まりで、この10年で割合が有意に増加しています。女性は男性よりアルコールの影響を受けやすく、少量でも健康リスクを高めるため、社会的な認識が必要です。
(出典: 令和5年 国民健康・栄養調査 P.49)
体の健康の入り口である口腔ケア。定期的な歯科検診の受診状況はどうなっているでしょうか。
男性: 54.8%
女性: 62.4%
年代 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
20代 | 38.3% | 50.3% |
30代 | 50.3% | 57.0% |
40代 | 49.9% | 62.3% |
50代 | 49.2% | 61.2% |
60代 | 62.8% | 68.8% |
70代以上 | 61.7% | 63.9% |
(出典: 令和5年 国民健康・栄養調査 P.54)
Q. 歯科検診を最も受けていないのはどの世代ですか?A. 男女ともに20代(男性38.3%、女性50.3%)です。受診率は年齢とともに上昇し、60代でピークを迎えます。
全体として歯科検診の受診率は過去に比べて増加しており、予防意識の高まりがうかがえます。特に女性は全ての年代で男性より受診率が高い傾向にあります。
一方で、若い世代ほど受診率が低いという課題も明らかです。「歯が痛くなってから行く」という意識が根強いことや、仕事や学業で忙しく、後回しになりがちな現状が考えられます。歯周病は糖尿病や心疾患など全身の健康に影響を及ぼすことが知られており、若いうちから定期的な検診を習慣づけることの重要性が増しています。
ここまで詳細なデータと分析を見てきて、ご自身の状況と重なる部分はありましたか。これらの数値は、今の日本の、そして私たち自身の姿です。課題が集中しやすい働き盛りの世代も、これからその年代を迎える若い世代も、この客観的なデータを「自分ごと」として捉えることが、より良い未来への第一歩となります。
まずは一つのデータに注目し、改善の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。その小さな選択が、明日の、そして10年後のあなたを確実に変えていくはずです。
狩野 学 (Manabu Karino)
ウェルネスドア合同会社 代表
アメリカスポーツ医科学会認定トレーナー (ACSM-CPT)
企業や個人向けに、専門的な知見に基づいた健康経営支援、栄養指導、フィットネスプログラムを提供。科学的根拠に基づいた、継続可能な健康ソリューションを提案している。
【データソースの最終確認】
本コラムで紹介した数値は、主に厚生労働省が2024年(令和6年)に公表した「令和5年 国民健康・栄養調査」の結果に基づいています。これらは、本稿作成時点(2025年9月)で利用可能な最新の公式統計データです。