「健康習慣が自動で身につく」仕組みとは?“if-thenプランニング”で従業員の行動継続率を高める

監修:ウェルネスドア合同会社 代表 狩野 学

この記事のポイント

  • 「やる気」や「意志の力」に頼った健康目標が失敗する理由は、脳の仕組みにある。
  • 行動科学のテクニック“if-thenプランニング”は、「いつ、どこで、何をするか」を事前に決めることで、行動を自動化する。
  • もし(if)昼休みになったら、すぐに(then)階段を1階分歩く」のように、既存の習慣に行動を紐づけるのがコツ。
  • 企業の健康教育にこの手法を組み込むことで、学びを「知識」で終わらせず、従業員の「習慣化」に繋げられる。

「今日からエレベーターではなく階段を使おう」「健康のために、毎日ストレッチをしよう」

年の初めや健康診断の後に、こうした目標を立てた経験は誰にでもあるでしょう。しかし、その決意はどれくらい続きましたか?多くの場合、「忙しいから」「疲れているから」と、いつの間にか元の習慣に戻ってしまいます。

この「三日坊主」の原因は、あなたの意志が弱いからではありません。人間の脳が「意志の力」に頼った行動を続けるのが苦手なだけなのです。この記事では、意志力に頼らず、まるで自動操縦のように健康的な行動を習慣化できる強力なテクニック、“if-thenプランニング”について解説します。

なぜ、私たちの決意は続かないのか?

私たちの脳は、非常にエネルギー効率を重視します。そのため、新しい行動を始めるよりも、無意識にできる「いつもの習慣」を好みます。新しい決意を実行するには、「今日はやるべきか?」「いつやろうか?」といった判断を毎回行う必要があり、脳のエネルギー(認知資源)を大量に消費します。仕事で疲れている時などに、このエネルギーが枯渇すると、私たちは楽な「いつもの習慣」に流されてしまうのです。

if-thenプランニングは、この「判断」のプロセスを事前に済ませておくことで、行動のハードルを劇的に下げる手法です。「もし(if)、〇〇の状況になったら、すぐに(then)△△の行動をとる」というルールをあらかじめ具体的に設定することで、脳がいちいち悩む隙を与えず、半ば自動的に行動を誘発するのです。

職場で使える「if-thenプラン」具体例

このテクニックを成功させるコツは、「既にある毎日の習慣」をトリガー(ifの部分)に設定することです。

運動不足を解消したい場合

  • もし(if)、昼食を食べに席を立ったら、すぐに(then)、エレベーターではなく階段で1階分歩く。
  • もし(if)、午後の仕事を開始する前にPCを開いたら、すぐに(then)、1分間だけ肩を回すストレッチをする。

食生活を改善したい場合

  • もし(if)、社員食堂でランチの列に並んだら、すぐに(then)、最初にサラダの小鉢をトレイに乗せる。
  • もし(if)、自動販売機で飲み物を買う前に、すぐに(then)、まず水を一杯飲む。

企業の健康教育を「習慣化プログラム」に変える方法

この強力なテクニックを、企業の健康経営に活かさない手はありません。

例えば、生活習慣改善に関するセミナーやeラーニングを実施する際、最後に必ず「if-thenプランニング・ワークショップ」の時間を設けましょう。参加者に「この学びを明日から実践するために、あなたはどんなif-thenプランを立てますか?」と問いかけ、実際に紙に書き出してもらいます。さらに、可能であればグループ内で共有し、互いに宣言し合うことで、「公言効果」が働き、実行率がさらに高まります。

知識をインプットするだけで終わらせず、具体的な「行動の予約」までをセットで提供すること。これが、研修効果を最大化し、従業員の行動変容を促す鍵となります。

「意志」に頼らない、行動デザインという発想

従業員の健康を守るために必要なのは、「頑張れ」という精神論ではなく、人間が持つ良い意味での「ズボラさ」を理解し、健康的な行動を“つい”取ってしまうような環境や仕組みをデザインすることです。
ウェルネスドアは、行動科学の知見に基づき、貴社の健康教育プログラムを「知識」から「習慣」へと転換するサポートをご提供します。

【主な情報源】
・経済産業省「健康経営度調査結果(result2024.xlsx)」
・経済産業省「健康経営優良法人2022(中小規模法人部門)認定法人取り組み事例集」