国の新指針「睡眠ガイド2023」は企業へのメッセージ。あなたの会社の睡眠施策は、もうアップデートしましたか?

「最近、従業員に元気がない…」「日中の会議で集中力が続かない…」

こうした従業員のパフォーマンス低下は、企業の成長を妨げる静かな脅威です。その根底には、多くの日本人が抱える「睡眠」の問題が隠れているかもしれません。

2023年、厚生労働省は『健康づくりのための睡眠ガイド2023』を発表しました。これは単なる健康情報ではなく、国が「睡眠」を国民全体の生産性に関わる**重要な経営資源**と位置づけた、企業に対する強いメッセージなのです。

この記事のポイント

  • 国の新指針「睡眠ガイド2023」が示す3つの視点(時間・質・休養感)と、企業に求められる役割がわかります。
  • 日本人の約3人に1人が睡眠不足という現状が、企業の「見えないコスト」に直結していることを理解できます。
  • すぐに実践できる3つのセルフケア習慣を学び、個人と組織両面からのアプローチの重要性がわかります。

「睡眠ガイド2023」が企業に示す、3つの重要な視点

今回のガイドラインは、単に「〇時間眠りましょう」というだけでなく、企業の健康経営に直結する3つの視点を提供しています。

視点1:パフォーマンスの土台となる「睡眠時間」の確保

ガイドでは、成人に最低6時間以上の睡眠を推奨しています。これは、日中のパフォーマンスを維持し、心身の健康リスクを低減するための基本ラインです。企業としては、従業員がこの時間を確保できているか注意を払う必要があります。長時間労働や過度な通勤負担が、この土台を揺るがす直接的な原因になり得ます。

視点2:生産性を左右する「睡眠の質」の向上

単に長く眠るだけでなく、規則正しい生活リズムや日中の適度な運動、ストレス管理が「睡眠の質」を高めるとされています。不規則なシフト勤務や深夜に及ぶ業務連絡は、従業員の体内時計を乱し、睡眠の質を著しく低下させます。質の低い睡眠は、創造性や問題解決能力の低下に直結します。

視点3:安全配慮義務にも関わる「休養感」の確保

「しっかり眠れた」という主観的な「休養感」も重要な指標です。十分な時間眠っても休養感が得られない場合、睡眠時無呼吸症候群(SAS)などの疾患が隠れている可能性も指摘されています。特にドライバーや機械オペレーターなど、わずかな注意力の低下が重大事故に繋がる職種では、従業員の「休養感」の確認は企業の安全配慮義務の観点からも極めて重要です。

日本の現実:3人に1人以上が「睡眠不足」という課題

では、日本の現状はどうでしょうか。最新の国民健康・栄養調査によると、国の推奨する最低ライン「6時間」に満たない睡眠しか取れていない成人が、全体の3分の1以上にものぼります。

日本人成人(20歳以上)の睡眠時間

35.1%
が6時間未満
6時間未満 (35.1%)
睡眠不足のリスクが高い状態
6時間以上 (64.9%)

※厚生労働省「令和4年 国民健康・栄養調査」より作成

氷山の一角:睡眠不足が蝕む「見えないコスト」の正体

健康経営を考える上で、企業のコストは氷山に例えられます。海面の上に見えているのは、健康診断費用や医療費といった「直接コスト」に過ぎません。

本当に巨大なのは、海面下に隠れた「間接コスト」です。特に、睡眠不足による集中力や意欲の低下から生じる**「プレゼンティーイズム(出社しているが不調で生産性が低い状態)」**による損失は、医療費の何倍にもなると言われています。

企業の健康コストの氷山モデル

医療費 (直接コスト)
アブセンティーイズム (病欠によるコスト)
プレゼンティーイズム (生産性低下による最も巨大なコスト)

今日からできる!睡眠の質を高める3つのセルフケア習慣

組織的な対策の前に、まずは個人で実践できる改善策を知ることが重要です。従業員一人ひとりが実践できる、科学的根拠に基づいた3つの習慣をご紹介します。

1. 朝の行動:体内時計をリセット

私たちの体には約24時間周期の体内時計が備わっています。この時計を毎朝リセットする最強のスイッチが「太陽の光」です。起床後30分以内にカーテンを開け、5分でも良いので光を浴びましょう。これにより、睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌が止まり、脳が覚醒。夜の自然な眠りに繋がります。

2. 日中の過ごし方:カフェインと昼寝の賢いルール

コーヒーや緑茶に含まれるカフェインの覚醒効果は、個人差はありますが約4〜5時間続きます。午後のパフォーマンスを上げたい場合でも、摂取は14時頃までがおすすめです。また、午後に強い眠気を感じる場合は、15時までに15〜20分程度の短い昼寝(パワーナップ)が非常に有効です。

3. 夜の習慣:脳をクールダウン

スマートフォンやPCの画面から出るブルーライトは、脳を覚醒させ、メラトニンの分泌を妨げます。質の高い睡眠のためには、就寝90分前には画面から離れ、読書や音楽、軽いストレッチなどリラックスできる時間に切り替えましょう。寝室を「涼しく・暗く・静か」に保つことも重要です。

個人の努力から、組織の力へ。専門家のサポートを活用しませんか?

セルフケアは非常に重要ですが、それだけでは限界があります。なぜなら、従業員の睡眠は長時間労働や職場ストレス、交代勤務といった**組織的な要因**にも大きく左右されるからです。ウェルネスドアでは、従業員の皆様に向けた「睡眠セミナー」も開催しています。専門家が正しい知識を直接解説し、組織全体の睡眠リテラシー向上をサポートします。

【主な情報源・出典】
・厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023
・厚生労働省「令和4年 国民健康・栄養調査報告