「最近、従業員に元気がない…」「日中の会議で集中力が続かない…」
こうした従業員のパフォーマンス低下は、企業の成長を妨げる静かな脅威です。その根底には、多くの日本人が抱える「睡眠」の問題が隠れているかもしれません。
2023年、厚生労働省は『健康づくりのための睡眠ガイド2023』を発表しました。これは単なる健康情報ではなく、国が「睡眠」を国民全体の生産性に関わる**重要な経営資源**と位置づけた、企業に対する強いメッセージなのです。
今回のガイドラインは、単に「〇時間眠りましょう」というだけでなく、企業の健康経営に直結する3つの視点を提供しています。
ガイドでは、成人に最低6時間以上の睡眠を推奨しています。これは、日中のパフォーマンスを維持し、心身の健康リスクを低減するための基本ラインです。企業としては、従業員がこの時間を確保できているか注意を払う必要があります。長時間労働や過度な通勤負担が、この土台を揺るがす直接的な原因になり得ます。
単に長く眠るだけでなく、規則正しい生活リズムや日中の適度な運動、ストレス管理が「睡眠の質」を高めるとされています。不規則なシフト勤務や深夜に及ぶ業務連絡は、従業員の体内時計を乱し、睡眠の質を著しく低下させます。質の低い睡眠は、創造性や問題解決能力の低下に直結します。
「しっかり眠れた」という主観的な「休養感」も重要な指標です。十分な時間眠っても休養感が得られない場合、睡眠時無呼吸症候群(SAS)などの疾患が隠れている可能性も指摘されています。特にドライバーや機械オペレーターなど、わずかな注意力の低下が重大事故に繋がる職種では、従業員の「休養感」の確認は企業の安全配慮義務の観点からも極めて重要です。
では、日本の現状はどうでしょうか。最新の国民健康・栄養調査によると、国の推奨する最低ライン「6時間」に満たない睡眠しか取れていない成人が、全体の3分の1以上にものぼります。
※厚生労働省「令和4年 国民健康・栄養調査」より作成
健康経営を考える上で、企業のコストは氷山に例えられます。海面の上に見えているのは、健康診断費用や医療費といった「直接コスト」に過ぎません。
本当に巨大なのは、海面下に隠れた「間接コスト」です。特に、睡眠不足による集中力や意欲の低下から生じる**「プレゼンティーイズム(出社しているが不調で生産性が低い状態)」**による損失は、医療費の何倍にもなると言われています。
組織的な対策の前に、まずは個人で実践できる改善策を知ることが重要です。従業員一人ひとりが実践できる、科学的根拠に基づいた3つの習慣をご紹介します。
私たちの体には約24時間周期の体内時計が備わっています。この時計を毎朝リセットする最強のスイッチが「太陽の光」です。起床後30分以内にカーテンを開け、5分でも良いので光を浴びましょう。これにより、睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌が止まり、脳が覚醒。夜の自然な眠りに繋がります。
コーヒーや緑茶に含まれるカフェインの覚醒効果は、個人差はありますが約4〜5時間続きます。午後のパフォーマンスを上げたい場合でも、摂取は14時頃までがおすすめです。また、午後に強い眠気を感じる場合は、15時までに15〜20分程度の短い昼寝(パワーナップ)が非常に有効です。
スマートフォンやPCの画面から出るブルーライトは、脳を覚醒させ、メラトニンの分泌を妨げます。質の高い睡眠のためには、就寝90分前には画面から離れ、読書や音楽、軽いストレッチなどリラックスできる時間に切り替えましょう。寝室を「涼しく・暗く・静か」に保つことも重要です。
セルフケアは非常に重要ですが、それだけでは限界があります。なぜなら、従業員の睡眠は長時間労働や職場ストレス、交代勤務といった**組織的な要因**にも大きく左右されるからです。ウェルネスドアでは、従業員の皆様に向けた「睡眠セミナー」も開催しています。専門家が正しい知識を直接解説し、組織全体の睡眠リテラシー向上をサポートします。
【主な情報源・出典】
・厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
・厚生労働省「令和4年 国民健康・栄養調査報告」