1万歩でも効果半減?万歩計の数字に潜む「歩幅の落とし穴」とは

この記事のポイント

  • 万歩計の「歩数」だけを追いかけると、ウォーキングの本当の効果を見逃している可能性があります。
  • 歩幅の狭い「ちょこちょこ歩き」は、運動効果が低く、転倒リスクを高めるだけでなく、最新の研究では認知機能低下のリスクも指摘されています。
  • 理想の歩幅は「身長(cm) × 0.45」が目安ですが、まずは前後の足の間に「靴1足分」のスペースを作ることから意識してみましょう。
  • 歩幅を広げることで、いつもの歩きが最高の「健康投資」に変わります。

「やった!今日は1万歩、達成!」

スマートウォッチや万歩計の数字を見て、一日の終わりに達成感を味わう。健康のためにウォーキングを習慣にしている方にとって、これは嬉しい瞬間でしょう。

しかし、その歩数、本当に「質の高い歩き」から生まれたものでしょうか?

実は、歩幅が狭いと歩数が多くても、見過ごせない「落とし穴」が潜んでいます。今回のエキスパートインサイトでは、歩数という「量」だけでなく、歩幅という「質」の重要性について、専門機関の知見も交えながら徹底解説します。

第1章:あなたの理想の歩幅は?万歩計の錯覚

厚生労働省が運営する情報サイト「e-ヘルスネット」では、ウォーキングによる健康効果を高めるための歩幅の目安を**「身長(cm) × 0.45」**としています。

  • 身長170cmの方:170 × 0.45 = 76.5cm
  • 身長155cmの方:155 × 0.45 = 69.8cm

この歩幅を維持して1km歩くと約1,400歩前後になりますが、もし歩幅が50cmしかなければ、同じ1kmでも**2,000歩**かかります。万歩計の数字は増えますが、それは単に「歩く効率が悪かった」だけかもしれません。

第2章:「ちょこちょこ歩き」に潜む深刻なデメリット

デメリット1:運動効果が半減し、お尻が垂れる

歩幅を広くすると、お尻の横にある**中殿筋**や太ももの裏側(ハムストリングス)といった、ヒップラインの形成や安定した歩行に不可欠な大きな筋肉が使われます。しかし、ちょこちょこ歩きではこれらの筋肉がほとんど活動せず、運動効果が半減するだけでなく、加齢による「垂れ尻」を加速させる一因にもなりかねません。

デメリット2:転倒リスクが格段に高まる

歩幅が狭いと、足を上げる高さも低くなり、地面をこするような「すり足」になりがちです。これにより、カーペットの縁やわずかな段差でつまずきやすくなり、転倒や骨折、ひいては寝たきりへ繋がるリスクを高めてしまいます。

要注意:歩幅の狭さは認知機能低下のリスクにも

さらに見過ごせないのが、認知機能との関連です。**東京都健康長寿医療センター研究所**の調査では、65歳以上の高齢者を対象に歩幅と認知機能の関係を追跡したところ、**歩幅が狭いグループは広いグループに比べ、認知機能が低下するリスクが3倍以上も高かった**と報告されています。

研究者は、歩幅の広さが身体能力だけでなく、注意を分散させる能力や計画性といった脳の高次機能を反映している可能性があると指摘しています。つまり、歩幅は「足の健康」だけでなく、「脳の健康」のバロメーターでもあるのです。

第3章:目指す歩幅は「プラス靴1足分」!質を高める3つのコツ

では、どうすれば歩幅を広げられるのでしょうか。理想の計算式をいきなり目指すのは大変です。まずは、今日からできる簡単な目標を立てましょう。

目標は、前足のかかとと後ろ足のつま先の間に
「自分の靴1足が余裕で入る」スペースを作ること!

この「プラス靴1足分」の歩幅を実現するための、簡単な3つのコツをご紹介します。

  1. 腕を「後ろ」に大きく振る
    腕を前に振るより、ひじを軽く曲げて後ろにしっかり引くことを意識しましょう。腕の振りが推進力となり、骨盤がスムーズに前に出て、自然と一歩が大きくなります。
  2. 目線を「少し遠く」に置く
    足元ばかり見ていると背中が丸まり、歩幅は狭まります。顔を上げて、5〜10mほど先の遠くを見るようにしましょう。自然と背筋が伸び、歩き姿も美しくなります。
  3. かかとから着地し、親指で蹴り出す
    着地はかかとから柔らかく。そして、後ろ足の親指の付け根で地面をグッと押し出すように意識します。この一連の動きが、脚全体の筋肉を効率よく使うための基本です。

まとめ:歩数(量)から歩幅(質)へ。毎日の歩きを「健康投資」に変えよう

万歩計の数字は努力の証です。しかし、これからはその数字に「歩幅」という質の視点を加えてみませんか?

歩幅を意識するだけで、いつもの散歩が、足腰を鍛え、脳の健康も守る最高のトレーニングに変わります。その一歩が、10年後のあなたのための、最も賢い「健康投資」になるはずです。

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この記事の監修者

狩野 学(かりの まなぶ)

ウェルネスドア合同会社 代表

アメリカスポーツ医科学会認定トレーナー

【引用・参考文献】
・厚生労働省 e-ヘルスネット「ウォーキング」「速歩きと歩幅」
・東京都健康長寿医療センター研究所「プレスリリース:歩幅の狭い人は認知機能低下のリスクが3倍以上」