【個人情報と配慮の境界線】部下の「病気」と向き合う。治療と仕事を両立させる個別支援の進め方

この記事のポイント

  • がん、メンタル不調、不妊治療など、多様化する病状に対し画一的な制度では対応できない理由がわかります。
  • プライバシーを守りながら支援を進めるための「初期相談」「プラン作成」「定期的な見直し」という3ステップを具体的に学べます。
  • 管理職がどこまで聞いて良いのか、チームにどう伝えるべきか、などデリケートなコミュニケーションの注意点が理解できます。

「実は、がんの治療を始めることになりました…」
部下からこのようなデリケートな相談を受けたとき、管理職や人事担当者は、どのような言葉をかけ、どう行動すべきでしょうか。

2人に1人ががんに罹患し、多くの人が働きながら治療する現代において、治療との両立支援はすべての企業にとって必須のテーマです。しかし、育児や介護と最も異なる点は、その**極めて高いプライバシー性**と、**病状や治療法による必要な配慮の多様性**です。

この記事では、画一的な制度だけでは対応しきれない「治療と仕事の両立」について、従業員のプライバシーを守りながら、一人ひとりに寄り添う**「個別支援」**の具体的な進め方を解説します。

なぜ「個別支援」が不可欠なのか?治療で異なる課題

「病気休暇」という一つの制度だけでは、多様化する治療の現実に追いつけません。

  • がん治療:手術、抗がん剤、放射線など、治療フェーズによって体力低下の度合い、通院頻度、副作用(外見の変化を含む)などが大きく異なり、必要な配慮も常に変化します。
  • メンタルヘルス不調:不調の波が周囲から見えにくく、本人のペースに合わせた業務負荷の調整が不可欠です。「復帰=完治」ではなく、再発防止への長期的な配慮が求められます。
  • 不妊治療や慢性疾患:急な通院が頻繁に必要になったり、定期的な検査や投薬が欠かせなかったりと、柔軟な勤務時間・場所の調整が両立の鍵となります。

プライバシーを守りながら支援を進めるための3ステップ

従業員の安心感を醸成し、適切な支援を行うためのプロセスを3段階で解説します。

ステップ①:初期相談(聴く・繋ぐ)

相談を受けた管理職の役割は、**専門家になることではなく、安心して話せる最初の窓口となり、適切な部署に「繋ぐ」こと**です。病名や治療の詳しい内容を詮索するのは厳禁。「話してくれてありがとう。会社としてサポートしたい」という姿勢を伝え、本人の同意を得た上で人事や産業医といった専門部署と連携しましょう。

ステップ②:両立支援プランの作成(計画する・連携する)

本人、主治医、会社(人事・産業医・上司)が情報を共有し、具体的な支援計画を立てます。その際、主治医に「業務上必要な配慮事項」を書いてもらう意見書(診断書とは別)などを活用すると、客観的な情報に基づいた適切な配慮が可能になります。勤務時間の短縮、業務内容の変更、通院への配慮などを盛り込んだ**「個別支援プラン」**を、必ず本人の合意のもとで作成します。

ステップ③:定期的な見直し(見守る・調整する)

体調は常に変化するため、一度プランを作って終わりにしてはいけません。定期的な面談(例:1ヶ月に1回)を通じて、プランが現状に合っているか、無理が生じていないかを確認します。体調が安定してきたら業務の範囲を少し広げる、治療の段階が変わったら勤務時間を調整するなど、状況に応じて**プランを柔軟に見直していく**ことが、長期的な両立の秘訣です。

よくあるご質問(FAQ)

Q. 周囲の社員に、どこまで情報を共有すべきでしょうか?

A. **本人の明確な同意なく、病名などの個人情報を共有することは絶対に許されません。**共有すべきは、業務を円滑に進める上で「最低限必要な情報」のみです。例えば、「治療のため、〇〇さんは今後、毎週金曜の午後は通院休暇を取得します。担当業務のAについては、Bさんが引き継ぎます」といった事実情報に留めます。共有する内容と範囲は、必ず事前に本人とすり合わせましょう。

Q. 主治医と直接連携を取りたいのですが、可能ですか?

A. 会社(上司や人事)が主治医と直接やり取りすることは、個人情報保護の観点から一般的ではありません。連携の基本は、**従業員本人を介して**行います。会社側が知りたい配慮事項(例:残業の可否、重量物の扱いの可否など)をまとめたフォーマットを本人に渡し、主治医に記入してもらう「意見書」の形式が最もスムーズで適切です。

個別支援は、従業員の「生きる」を支える企業の姿勢です

治療と仕事の両立支援は、単なる制度運用ではありません。
従業員一人ひとりの人生に寄り添い、誰もが安心して働き続けられる企業文化そのものです。
「管理職の対応力を高めたい」「個別支援の具体的な進め方を知りたい」
ウェルネスドアでは、各企業の課題に合わせた実践的な両立支援セミナーをご提供します。

【免責事項】
本記事は、両立支援に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的・医学的な助言を行うものではありません。具体的な制度設計や個別事案への対応については、必ず社会保険労務士、医師などの専門家にご相談ください。

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