あなたの今日のスケジュール帳を見てください。9時-10時、10時-11時、11時-12時…と、オンライン会議が隙間なく並んではいませんか?
前の会議が少し延び、次の会議に慌てて参加する。トイレに行く時間すら惜しい。そんな働き方が、特にリモートワークの普及以降、多くの職場で常態化しています。しかし、この「常に接続されている状態」が、従業員の脳と心に深刻なダメージを与えていることが、最新の研究で明らかになってきました。
Microsoft社の研究所が脳波(EEG)を測定した調査では、**休憩なしで連続して会議に参加すると、脳内のストレスレベルが時間と共に着実に蓄積していく**ことが確認されました。これは、創造性の低下や燃え尽き症候群(バーンアウト)の直接的な原因となります。「休みにくい雰囲気」という日本企業特有の課題も相まって、従業員のウェルビーイングは静かに蝕まれているのです。
この記事では、個人の心がけに頼るのではなく、**「時間」と「環境」をデザイン**することで、戦略的に「休み」を生み出し、組織全体のパフォーマンスを高めるための3つの具体的な仕掛けをご紹介します。
「疲れたら休もう」と思っても、次々と舞い込む通知や業務に追われ、自分の意思だけで休憩を取るのは困難です。そこで最も強力なのが、休憩が自動的に生まれる**「デフォルト設定」**の変更です。
GoogleやMicrosoftは、自社のカレンダーツールで会議を設定する際、1時間を「50分」、30分を「25分」に短縮して設定する機能を導入しました。これは、人間の「わざわざ設定を変えるのは面倒」という心理を利用した巧みなナッジです。この**「強制的な余白」**により、従業員は会議の合間に脳をリセットし、次のタスクに集中して取り組むことができます。前述のMicrosoft社の研究でも、会議の間に短い休憩を挟むだけで、脳のストレス蓄積が劇的に抑制されることが示されています。
休憩時間が生まれても、自席でスマホを見ていては脳は休まりません。心身を本当にリフレッシュさせるには、仕事場から物理的・心理的に離れることが重要です。そのためには、従業員が**「つい行きたくなる」ような魅力的な休憩スペース**が不可欠です。
かつて「ウォータークーラー効果」と呼ばれたように、こうした場所で生まれる偶発的な雑談や非公式なコミュニケーションは、従業員の孤独感を和らげ、心理的安全性を高めるだけでなく、新たなアイデアやイノベーションの温床となります。リモートワークで失われたこの「繋がり」を、意図的にデザインすることが今、求められています。
どんなに素晴らしい仕組みや環境を整えても、「上司や先輩が休んでいないのに、自分だけ休むのは気が引ける…」という**同調圧力**の前では無力です。この見えない壁を壊す最も強力なナッジは、**リーダー層による「率先垂範」**です。
管理職が自ら「15分、コーヒー休憩してきます」と宣言して席を立ったり、休憩室での雑談を積極的に楽しんだりする姿は、「この職場では、休憩は許されるだけでなく、推奨される行動なのだ」という明確なメッセージを部下に送ります。これは、組織の「休むこと」に対する社会的規範を再設定する、最も効果的でコストのかからない方法です。
最高のパフォーマンスは、最高の休息から生まれます。従業員の燃え尽きを防ぎ、創造性を最大限に引き出すためには、「休むこと」を個人の裁量に任せるのではなく、組織として戦略的にデザインすることが不可欠です。
ウェルネスドアは、貴社の働き方に合わせた、持続可能なウェルビーイング戦略の構築をサポートします。
監修:ウェルネスドア合同会社 代表 狩野 学
【免責事項】
本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の効果を保証するものではありません。メンタルヘルスの不調については、必ずかかりつけの医師や専門家にご相談ください。
【主な情報源】
・Microsoft WorkLab "Research Proves Your Brain Needs Breaks"
・厚生労働省「労働安全衛生調査(実態調査)」
・Google re:Work "Make meetings better"