監修:ウェルネスドア合同会社 代表 狩野 学
「全社でウォーキングイベントを企画したが、参加するのはいつも同じメンバー…」「健康セミナーを開催しても、なかなか人が集まらない…」
多くの健康経営ご担当者様が、こうした悩みに直面しています。従業員の健康を願って企画した施策が、一部の健康意識の高い層にしか届かないのは、非常にもったいないことです。
この「参加者が固定化する」という課題を解決する鍵は、人の「意志の力」に頼るのではなく、「仲間とのつながり」や「社会的な影響力」を巧みに利用する行動科学のテクニックにあります。この記事では、参加率を劇的に向上させる“ソーシャル・ナッジ”という考え方と、その具体的な実践方法を解説します。
そもそも、なぜ多くの人は「健康のために運動した方が良い」と頭では分かっていても、行動に移せないのでしょうか。それは、人間の脳が現状を維持しようとする「現状維持バイアス」という強い習性を持っているからです。新しい行動を始めるには、この強力な慣性に打ち勝つための、大きなエネルギーが必要になります。
しかし、このエネルギーを個人の「やる気」や「意志の力」だけに求めると、三日坊主に終わってしまいます。そこで登場するのが「ソーシャル・ナッジ」、つまり**社会的な繋がりを利用して、そっと後押しする仕掛け**です。「みんながやっているから、自分もやってみよう」「仲間に迷惑をかけられないから、頑張ろう」という心理が、行動へのハードルを下げ、継続のモチベーションとなるのです。
「健康経営優良法人」に認定されている企業の中には、このソーシャル・ナッジを巧みに活用し、高い参加率を実現している事例が数多くあります。
最も効果的なのは、部署や支店、あるいは有志で結成したチーム対抗戦にすることです。個人の歩数をチームの平均歩数で競う形にすれば、「運動が得意な人だけが活躍する」という状況を避けられます。自分の頑張りがチームのスコアに貢献する、という意識が「自分ごと化」を促し、普段は運動に関心がない層をも巻き込む力になります。「足を引っ張りたくない」という気持ちが、継続的な参加への動機付けとなるのです。
チームのランキングや個人の達成状況を、社内報やイントラネットの掲示板などで定期的に発表しましょう。「〇〇部、現在トップ!」「△△さん、10万歩達成おめでとう!」といった具体的な称賛は、参加者の承認欲求を満たし、モチベーションを高めます。また、「あの部署が頑張っているなら、うちも負けられない」という健全な競争意識も生まれます。デジタルツールを使えば、リアルタイムで順位が変動する様子を見せることもでき、イベントをさらに盛り上げることができます。
社長や役員が自らチームを作って参加し、イベントの進捗について積極的に発信することは、従業員に対する何より強力なメッセージとなります。「経営層が本気で推奨している」という姿勢が伝わることで、施策の重要性が社内に浸透し、「参加しないと損かも」という雰囲気が醸成されます。朝礼や会議の場で「私も毎日歩いています」と一言触れるだけでも、従業員の意識は大きく変わるでしょう。
健康施策の成功は、従業員一人ひとりの意志の力に依存するのではなく、組織全体で「自然と参加したくなる」楽しい雰囲気をいかにデザインできるかにかかっています。
ウェルネスドアは、行動科学に基づいたイベント設計や、従業員のエンゲージメントを高めるコミュニケーション戦略の策定を通じて、貴社の健康経営を成功に導きます。
【主な情報源】
・経済産業省「健康経営度調査結果(result2024.xlsx)」
・経済産業省「健康経営優良法人2022(中小規模法人部門)認定法人取り組み事例集」