「大事な会議の後、無性に甘いものが食べたくなる」
「残業中、ついスナック菓子に手が伸びてしまう」
こうした経験は、決してあなたの「意志が弱い」からではありません。実は、ストレスに対する身体の極めて正常な防衛反応なのです。
厚生労働省の調査では、仕事で強いストレスを感じる労働者の割合は5割を超えています¹。この慢性的なストレスが、気づかぬうちに「コルチゾール腹」と呼ばれる、ぽっこりお腹(内臓脂肪型肥満)の原因になっているかもしれません。
この記事では、ストレスと食欲の科学的な関係を解き明かし、日々のパフォーマンスを高め、将来の健康を守るための「守り」と「攻め」の食事術を専門家の視点から解説します。
ストレスを感じると、私たちの身体は「コルチゾール」というホルモンを分泌します。短期的には、血糖値を上げてエネルギーを作り出し、ストレスに対抗する味方です。しかし、ストレスが慢性化すると、このコルチゾールが悪影響を及ぼし始めます。
過剰に分泌されたコルチゾールは、食欲を増進させるだけでなく、脂肪を溜め込み、特にお腹周りの「内臓脂肪」として蓄積しやすくする性質があります。この内臓脂肪は、見た目の問題だけでなく、糖尿病や心疾患などの生活習慣病リスクを急激に高める「危険な脂肪」なのです。
さらに、コルチゾールは高脂肪・高糖質な「ジャンクフード」への渇望を引き起こします。これらを食べると脳内で一時的に快感物質が放出され、ストレスが和らいだように感じます。これが「ストレス → どか食い → 一時的な快感」という負の報酬ループとなり、食習慣を乱す大きな原因となります。
幸いなことに、食事の選び方によって、ストレスの影響を軽減することが可能です。「守り」と「攻め」の栄養学を意識してみましょう。
● ビタミンC:ストレス時に最も消耗される栄養素の一つ。コルチゾールの調整役である副腎をサポートします。
【豊富な食材】パプリカ、ブロッコリー、キウイフルーツ、柑橘類など。
● ビタミンB群:エネルギー代謝を助け、神経の働きを正常に保つ「心のビタミン」です。
【豊富な食材】豚肉、レバー、うなぎ、玄米、納豆など。
● トリプトファン:精神を安定させる「セロトニン」の材料となる必須アミノ酸です。
【豊富な食材】大豆製品(豆腐・納豆)、乳製品(チーズ・ヨーグルト)、バナナなど。
● GABA(ギャバ):興奮を鎮め、リラックス効果をもたらす神経伝達物質として働きます。
【豊富な食材】発酵食品(味噌、キムチ)、発芽玄米、トマトなど。
● マグネシウム:神経の興奮を抑え、コルチゾールの過剰分泌を抑制する働きがあるミネラルです。
【豊富な食材】海藻類(あおさ、わかめ)、ナッツ類、ほうれん草、豆腐など。
【つい選びがちな例】菓子パン + 甘いカフェラテ
【賢い選択例】鮭おにぎり + 具沢山の味噌汁 + ほうれん草のおひたし + ゆで卵
ポイントは、たんぱく質、ビタミン、ミネラルを意識的にプラスすることです。
ラーメンやパスタなどの単品で済ませず、品数の多い「定食スタイル」を選びましょう。「まごわやさしい」(豆・ごま・わかめ・野菜・魚・しいたけ・いも)を意識すると、自然と栄養バランスが整います。
小腹が空いたら、スナック菓子の代わりに、素焼きナッツ、ハイカカオチョコレート、小魚アーモンド、無糖ヨーグルトなどを選びましょう。
ストレスによる食欲を、意志の力だけでコントロールするのは非常に困難です。しかし、日々の食事の選び方を少し変えるだけで、身体の内側からストレスへの抵抗力を高めることができます。
食事は、日々のパフォーマンスを支え、長期的な健康を守るための、最も身近で強力なツールなのです。
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【免責事項】
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の効果を保証するものではありません。個人の健康状態や病状に応じた食事については、必ずかかりつけの医師や管理栄養士にご相談ください。
【主な情報源・参考文献】
¹ 厚生労働省「令和4年 労働安全衛生調査(実態調査)」
・厚生労働省 e-ヘルスネット「ストレス」「抗酸化ビタミン」