4割が退職を検討。管理職世代を襲う「更年期の壁」と企業の損失

この記事のポイント

  • 重い更年期症状に悩む女性の43.6%が退職を検討し、実際に17.2%が離職している。
  • 症状により仕事のパフォーマンスは約47%低下。これは企業にとって大きな生産性損失となる。
  • 問題は「ホットフラッシュ」だけではない。「脳の霧(ブレインフォグ)」や気分の落ち込みなど、判断力や意欲に直結する症状も多い。
  • 経験豊富な人材の流出を防ぐ鍵は、「正しい知識の共有」「柔軟な働き方」「相談できる文化」の醸成にある。

管理職への昇進など、キャリアの円熟期を迎える40代から50代。しかし、この重要な時期に多くの女性従業員が、心身の急激な変化という見えない壁に直面しています。それが「更年期」です。

「個人の体調の問題」と片付けられがちなこの課題が、実は4割以上の当事者に退職を考えさせ、貴重な人材を失う原因となっているとしたら、それはもはや個人の問題ではなく、組織全体で取り組むべき経営課題ではないでしょうか。

この記事では、データが示す「更年期の壁」の深刻な実態と、企業が優秀な人材を失わないために今すぐできる具体的な対策について、深く掘り下げて解説します。

キャリアの正念場に訪れる、心と身体の「嵐」

更年期症状は、女性ホルモン(エストロゲン)の急激な減少によって引き起こされます。一般的に知られるホットフラッシュ(のぼせ・ほてり)や発汗だけでなく、その症状は多岐にわたり、仕事のパフォーマンスに深刻な影響を与えます。

見過ごされがちな「脳の霧(ブレインフォグ)」という症状

特に注意したいのが、思考力や集中力が低下する「ブレインフォグ」と呼ばれる症状です。「会議の内容が頭に入ってこない」「簡単な言葉が思い出せない」「企画書をまとめるのに普段の倍以上時間がかかる」といった状態に陥り、本人も「能力が落ちたのではないか」と深刻に悩み、自信を失ってしまいます。

その他にも、気分の落ち込み、不安感、不眠、関節痛、疲労感など、多種多様な症状が日替わりで現れることもあり、経済産業省の調査では、症状がある時のパフォーマンスは平均で約47%も低下するという結果が出ています。

なぜ「静かな離職」は起きてしまうのか

これほどの不調を抱えながら、なぜ従業員は誰にも相談できずに離職を選んでしまうのでしょうか。背景には、日本の職場特有の課題があります。

  • 理解不足と無言のプレッシャー:更年期症状への理解が乏しい職場で「やる気がない」「怠けている」と誤解されることを恐れ、不調を隠して無理に働き続けてしまう。
  • 相談相手の不在:特に男性が多い職場や、同世代の女性が少ない環境では、悩みを打ち明けられる相手がおらず、一人で孤立してしまう。
  • キャリアへの不安:管理職などの責任ある立場で、「弱みを見せられない」というプレッシャーから、誰にも相談できずに追い詰められ、自らキャリアを手放してしまう。

優秀な人材を守るために、企業ができること

経験豊富なベテラン従業員を失うことは、企業にとって計り知れない損失です。しかし、適切なサポート体制を築くことで、「更年期の壁」を乗り越え、さらに活躍してもらうことは十分に可能です。

  • ステップ1:まずは「知る」ことから。全社的なリテラシー向上を。
    最も重要なのは、経営層や管理職、そして同僚である男性従業員が、更年期について正しく理解することです。専門家を招いたセミナーなどを実施し、「誰の身にも起こりうること」「適切な対処で乗り越えられること」を全社で共有しましょう。
  • ステップ2:「やり過ごせる」環境を整える。柔軟な働き方の選択肢を。
    症状が辛い日に無理は禁物です。体調に合わせて一時的に休憩できるスペースを設けたり、リモートワークやフレックスタイム制度を活用して心身の負担を軽減できる環境を整えることが、離職防止に直結します。
  • ステップ3:一人で抱えさせない。相談できる窓口の設置。
    社内の相談窓口に加え、プライバシーが守られる外部の専門機関(EAP)や、オンラインで婦人科医に相談できるフェムテックサービスなどを導入し、従業員が「相談できる場所がある」という安心感を持てるようにすることが大切です。

更年期サポートは、全従業員への投資

更年期への正しい理解と支援は、当事者である女性従業員を守るだけでなく、組織全体の心理的安全性を高め、誰もが長期的に安心して働ける企業文化を育みます。
それは、すべての従業員のエンゲージメントを高め、企業の持続的な成長を支える「未来への投資」です。
ウェルネスドアは、リテラシー向上セミナーの開催から相談体制の構築まで、貴社の状況に合わせたサポートをご提案します。

【主な情報源】
・経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」