「月経前になると、どうしようもなくイライラする」「ひどい腹痛で仕事に集中できない」
多くの働く女性が、こうした月経にともなう心身の不調、いわゆる月経随伴症(PMSなど)に悩まされています。しかし、「毎月のことだから」「病気ではないから」と我慢し、一人で耐えているケースがほとんどではないでしょうか。
この「個人の我慢」に委ねられている問題が、実は日本全体で年間約4,911億円もの経済損失を生んでいるという事実を、ご存知でしょうか。これは、企業の生産性を静かに蝕む、見過ごせない経営課題です。この記事では、データに基づきながらPMSの実態と、企業が取り組むべき対策を解説します。
経済産業省の調査によると、月経随伴症の症状がある女性従業員は、症状がない時と比べて仕事のパフォーマンスが平均で49%も低下していることがわかっています。つまり、本来の能力の半分しか発揮できていない状態で働いているのです。
これは「プレゼンティーイズム(出社しているが、心身の不調により生産性が低下している状態)」の典型例です。欠勤(アブセンティーイズム)と異なり、数値として見えにくいため、問題として認識されにくいのが特徴です。しかし、この積み重ねが、組織全体の生産性を大きく引き下げています。
このように、症状は身体的なものに留まらず、コミュニケーションや判断力といった業務遂行能力に直接影響を及ぼすものが少なくありません。
従業員が安心して働ける環境を整えることは、生産性の維持・向上に不可欠です。明日からでも始められる具体的な対策をご紹介します。
症状が特に辛い日には、無理に出社することがさらなるパフォーマンス低下を招きます。通勤の負担がなく、自分のペースで仕事ができるリモートワークや、通院や休憩のために出退勤時間を調整できるフレックスタイム制度は極めて有効です。特別な休暇制度がなくても、こうした柔軟な働き方の選択肢があるだけで、従業員の心身の負担は大きく軽減されます。
PMSについて、女性自身も「自分の体質だから」と諦めていたり、男性は「全く知識がない」というケースがほとんどです。まずは、男女問わず全従業員を対象に、専門家によるリテラシー向上セミナーなどを実施しましょう。女性ホルモンの基礎知識や、症状には個人差があることを全員が理解することで、「辛い時はお互い様」という配慮の文化が生まれます。
症状が重い場合は、婦人科での治療が有効なことも少なくありません。社内報やイントラネットでセルフケアの情報や婦人科受診の重要性を伝えたり、産業医や保健師、あるいは外部の相談窓口(EAP)といった、専門家にアクセスできるルートを周知することが大切です。「我慢する以外の選択肢がある」と知るだけで、従業員の安心感に繋がります。
PMSへの対策は、単なる女性支援ではありません。
組織全体の生産性を向上させ、誰もが気兼ねなく能力を発揮できる職場環境を構築するための、極めて合理的な経営判断です。
ウェルネスドアは、専門家によるリテラシー向上セミナーを通じて、貴社の組織風土改革をサポートします。
【主な情報源】
・経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」